メディア装置としてのSchnellraumseher

みなさまこんにちは。筑波大学情報メディア創成学類4年で、メディアクリエイターとして活動しています鈴木健太です。僕はあまり言語表現が得意ではないので、今までblogやLTを避けてきたのですが、様々に思うところがあって、初めてblogを書きました。稚拙な文章ではありますが、最後まで読んでくださると嬉しいです。


現在、つくば市美術館にて開催されているつくばメディアアートフェスティバル2018にて、Schnellraumseherという作品を展示しています。作品の詳細は以下のページにまとめています。今日は美術館の休館日で、2日間の展示を終え、残すところ6日間の展示を予定しています。

さて、今回blogを書こうと思った理由は、2日間の展示を通して、僕がこの作品に関して一番大事にしている部分がどうしても伝わりにくいと感じたからです。原因として、僕の展示方法や(webサイトを含めた)キャプションの書き方に問題があると思います。作品を文字でまとめて公開することに賛否両論あるかとは思いますが、展示方法やキャプションだけでは伝えきれない部分もあると考え、その対処法として試験的にこのような形態をとってみたいと思います。


この作品は、様々な観点から捉えることができる作品となっていますが、今回はメディア装置としてのSchnellraumseherについて書きたいと思います。


自己紹介

略歴

はじめに、はじめましての方向けに自己紹介をしようと思います。より詳しい内容はこちらのページを見てください。僕は表現文化に関わるメディア装置に興味があり、筑波大学の情報メディア創成学類で勉強しています。学問的には、情報学を中心とした学際領域を扱っている学類になります。

筑波大学には「先導的研究者体験プログラム(ARE)」というプログラムがあり、学部生から研究できるという制度があります。こちらのプログラムで大学1、2年生の時には、落合陽一研究室Digital Nature Groupでお世話になり、研究活動をしていました。また、研究の傍らメディアアーティストでもある先生の作品制作のお手伝いをしていました。

2年間の研究・制作手伝いを経て、自分の表現をしたい・自分の考えを深めたいという気持ちが強くなり、大学3年では個人のクリエイターとしての活動を始め、クマ財団のクリエイター奨学金DMM.make AKIBAのスカラーシップ制度にお世話になりながら、作品制作を行いました。


何がしたいのか

前述のとおり、表現文化に関わるメディア装置を産み出すことに興味があります。「研究者になりたいの?」「アーティストになりたいの?」と聞かれることが多いのですが、一番近いニュアンスを持つ言葉では、発明家になりたいと考えています。極端な例にはなりますが、わかりやすい例をとると、トーマス・アルバ・エジソンアレクサンダー・グラハム・ベルのようにある表現文化を成立させるようなメディア装置を開発することを1つの目標にしています。より細かなモチベーションとしては、産業的に成立させたいというよりは、装置自体を産み出したいというモチベーションが強いですが、今回はこちらの話には深く言及しないこととします。


一番近いニュアンスを持つ言葉として発明家という言葉を用いましたが、現代において、表現文化における装置の発明は、発明芸術としてのメディアアートとして成立すると考えています。昨今、あれはメディアアートだ・メディアアートではないという議論がよくなされていますが、僕は自らの作品をそう位置づけて制作をしています。こちらの件に関して、師匠である落合先生が言及されている以下のツイート内の2であると考えています。いわゆるツクバ系メディアアーティストと言われる人々が2に類するものだと解釈しています。

以上がざっくりとした僕の紹介になります。この記事が評判がよかったりしたら、過去プロジェクトと僕のモチベーションとの関係、僕の文脈についての記事を書きたいと思います。


3D Zoetrope

概要

さて、以上の内容を踏まえて本題に入りたいと思います。Schnellraumseherは、僕が研究室を辞めて、個人で制作した初作品となります。この作品は、「アニメーション文化をいかに空間上に展開するか」ということをテーマに制作をしました。

この作品を鑑賞された方の感想の中で一番多い感想が「これって3D Zoetropeだよね。」という感想です。確かに3次元物体を用いたアニメーション(以下、立体アニメーション)という観点で大別すると、これは3D Zoetropeに類するものかもしれませんが、既存のそれらの装置との差こそが僕の作品の独自性になります。


3D Zoetorpeとは、立体アニメーション装置の1つです。この装置を用いた表現として、三鷹の森ジブリ美術館東京都現代美術館で行われたピクサー展ICCに置いてあるものが有名です。これらの装置はもともと1834年に発明された古いアニメーション装置であるZoetrope、日本語では回転のぞき絵と呼ばれるメディア装置から着想され、それを3次元に拡張し、フィギュアを用いて立体アニメーションにしています。詳しい記事は3D Zoetropeと検索すると出てくると思います。

仕組みと特徴

では、この装置の仕組みと特徴について考えたいと思います。この装置では、動画の1フレームに対応する(パラパラ漫画で例えるならば、1ページの絵に対応する)人形をGIF動画のようなループになるように円盤上に固定します。それらを回転させ、回転速度に応じて回転円盤の外から発光をさせることでアニメーション効果を得ています。

図に示すとこんな感じです。この立体アニメーションの特徴として、位相差のあるアニメーションが複数見えてしまうという特徴があります。わかりやすく言い換えると、同じキャラクターのズレたアニメーションが同時に複数見えるということです。一番始めの状態で1の位置で始まるアニメーションが1→2→3→...と見えるとすると、その1つとなりの位置では同時に2→3→4→...というアニメーションが見えるということです。


アニメーションのコンテンツ鑑賞

この特徴を踏まえたうえで、平面アニメーションとこの装置による立体アニメーションの表現空間を考えると、このようになると思います。平面アニメーションでは、(2次元の)画面全体を表現空間とし、時間方向に変化していきます。この表現空間において同一のキャラクターは基本的に1つしか存在しないと思います。

しかし、立体アニメーションではどうでしょうか。前述の通り、空間内に複数の同一のキャラクターによるアニメーションが見えてしまっているのに、なぜ我々はアニメーションとしてコンテンツ消費が可能なのでしょうか。これはフレーム数の数、アニメーションが同時に見えてしまうといったメディア装置の特性を表現者も鑑賞者も(意識的・無意識的にかかわらず)理解していて、1アニメーション分の空間を局所的に切り取ることでコンテンツ鑑賞を成立してるのではないでしょうか。

先程のPixarの3D Zoetropeを具体例に考えると、動画内では引きのカットと寄りのカットが存在します。僕の考察では、引きのカットでは、メディア装置を鑑賞していると考えます。コンテンツそのものよりもメディア装置によって引き起こされる現象にフォーカスしていると思います。

そして、寄りのカットでは、コンテンツを鑑賞していると考えます。1つのキャラクターを注視し、他のキャラクターを無視することでアニメーションを鑑賞しています。

1アニメーション分の空間を局所的に切り取ることでコンテンツ鑑賞を成立してるとすると、円周上のケーキの一部分を注視させ、鑑賞の正面を規定することになり、実空間を用いた立体を使ったアニメーションであるもののコンテンツ鑑賞の方法は極めて平面アニメーションに近く、未だに縛られていると考えます。

落合さんの作品にゾートログラフという作品があります。この作品の装置は、3D Zoetropeのある1部分に幻灯機を設置し、立体アニメーションを平面アニメーションに写像しています。あえて次元を落とすことで物体と映像の関係を表現している作品ですが、僕の解釈では、この作品はそのような3D Zoetropeのメディア装置としての仕組みを明示的に示している作品だと解釈しています。


Schnellraumseher

さて、再びSchnellraumseherの話に戻ります。僕がこの装置を作ろうと思った経緯は、ピクサー展にて3D Zoetropeを鑑賞し、落合さんのZoetrographの設営を手伝った後、坂下申世とともにMaterialization of Motionsにおいて3D Zoetropeを実際に自分の手で制作した経験を通して徐々に考えを深めていき、いざ研究室を辞めて、何を作ろう?と考えた時にこの装置の問題に着手しようと考えました。


Elektrischer Schnellseher

この問題に対するアプローチには様々な方法が考えられます。その方法を検討するにあたって、映像メディア史について調査することにしました。特に映画が(産業として)誕生する以前には、様々な映像装置が誕生し、消えていきました。もしかしたらその当時は消えてしまったけれど、表現・鑑賞方法を空間的に成立させる立体アニメーション装置として再構成できるのではないかと考えました。

その中で、僕が着目した装置は1886年のドイツで、オットマール・アンシュッツによって発明されたElektrischer Schnellseherという装置です。ドイツ語でElektrischerは電気的、schnellが速い、seherが見るものという意味からなる語になります。こちらの装置は各フレームに対応するフィルムを円状に配置させ、回転させるとともに順に1フレームずつ裏から発光させることで静止画を動画にしています。これを一般化して考えると、見せたいフレームを発光によって表示させる装置と考えることができます。


Schnell"raum"seher

この考え方を空間アニメーションに適応したのが、Schnellraumseherになります。schnellseherという単語にraumという空間という意味の単語を挿入しました。各フレームに対応するそれぞれの物体の上下にその物体のみ照らすライトを設置しました。これによって見せたい空間位置のアニメーションのみ見せることができるようになりました。つまり同時に見えてしまっていた複数のアニメーションにうち、1つだけ見せることができるようになりました。これによって空間内に1つのキャラクターのみ存在させることができ、さらに回転制御によって円周上を移動させることにより、鑑賞方法として装置内の空間全体を表現空間とすることを可能にしました。

言い換えると、既存の3D Zoetropeとは異なり、寄りで平面的にコンテンツを鑑賞するのではなく、引きで空間的にコンテンツ鑑賞する装置になったということになります。これにより、立体による空間表現として空間アニメーションが可能になりました。これは「アニメーション文化をいかに空間上に展開するか」というテーマに対して、1つ大きな進歩であると考えています。

また、付随的ではありますが、このシステムを採用した結果、空間的に見せるアニメーションと見せないアニメーションを選択できるだけではなく、時間的にフレームを見せる・見せないを選択できるようになりました。これは、既存の装置で再生してたGIF動画のようにループ立体アニメーションだけでなく、フレーム操作をした表現が可能になります。


Bouncing Ball

具体的に動画として公開している「Bouncing Ball」というコンテンツを例にこの装置ならではの表現を紹介します。

まずは一番始めのこのアニメーションです。ただの立体から立体アニメーションへの遷移を表現しています。段々加速していき、バチっとアニメーションになる瞬間はたまらなく気持ちがいいんですが、このアニメーションは既存の3D Zoetropeでも表現可能な(ボールだと違和感がないと思いますが)同一のキャラクターによる位相差のある複数のアニメーションになります。

次に数がグッと減り、2つの立体アニメーションになります。この表現が、僕の装置による表現の特徴です。回転速度は同じなのですが、24個のうち2つのみ表示している状態です。コンテンツに応じて空間内に表示させるアニメーションの個数を選択できます。

そして、メディア装置的な観点からのこのコンテンツのキモはラストで、1つの球が跳ねながら空間全体を周っていきます。1つの球であることと、空間全体であることが極めて重要な表現になっています。次第に軌道は大きくなっていき、夢から覚めるように立体アニメーションはただの立体になっていきます。


まとめ

はじめに『この作品は、「アニメーション文化をいかに空間上に展開するか」ということをテーマに制作をしました。』と書きました。映像という文化で生まれた(平面)アニメーションを、本メディア装置は、コンテンツ鑑賞の点で(制約はかなりありますが、)空間的に展開可能にしたと考えています。これは表現文化的側面から大きな変革であると考えています。

僕はこの装置で再生されるアニメーションを平面アニメーション、立体アニメーションと区別して空間アニメーションと呼んでいます。

おそらく多くの方は映像を通して作品を知ってくださっていると思います。しかし、この作品は映像ではなく、その装置と同じ空間で直接鑑賞することに意味があると考えています。

このような記事の批判的な意見 があるとは思いますが、できるだけ多くの方に生で見てほしいという思いから、拙筆ながら記事を書かせていただきました。まだまだ6日間の会期が残っていますので、ぜひ会場にいらしてください。

2018.07.30 鈴木健太

(2018.07.31加筆修正)

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